REVUE DU SON (FRANCE)DEC 2006

Quand Shozo Kinoshita se hisse au sommet de son art
木下正三がオーディオ芸術の頂点に立つとき

コンサートにいらっしゃい
木下正三がオーディオ芸術の頂点に立つとき

木下正三(Rey Audio)、最初のTADスピーカー設計者は東京の北郊外を去り、雑音から遠く離れた箱根(富士山の麓にあって湖を有する観光旅行のための素晴らしい町)の山麓に、木の家を作り移り住んだ。

我々は1998年10月に、このオーディオの象徴ともいうべき人物に会うために、そして彼の会社、Rey Audio(そのハイエンドのモニターによって録音プロフェッショナルによく知られた名前)のオーディオルーム訪問のために日本へ行った。我々はそのときの世界で最も印象的だったといえるダイナミックなリスニングテストをどうして忘れることができるだろうか。
木下氏(前TADメンバー)が彼のパイオニアにおけるキャリアの当初からハイファイ音楽普及に対する強い情熱を持っていたことを思い出して下さい。やがて彼が高感度スピーカー(特にJBLからのもの)に強い関心を持ったのは自然な成り行きだった。パイオニアとJBLの間には良い関係があり、そんないきさつでAES総会において彼がBart Locanthi(AESの理事長の1人)と出会う機会があったのだ。彼はスピーカー設計の偉大な天才として有名でした。実際、我々はJBLにおけるBart Locanthi(1919-1994)のスピーカー設計者として、神話のような業績を見ることができる。すなわち375ドライバー、075リングツィーター、そしてLE8TやLE15を含む全てのLEシリーズモデルはあまりにも有名である。さらにBart Locanthiは、SE400Sのようないくつかのアンプで使われたT-サーキットを発明した。
1975年に、パイオニアグループはその活動を多様化して、プロフェッショナルオーディオの分野に取り組んだ。山本武夫によるこの発議から、1975年の終わりにパイオニアノースアメリカの子会社として生まれたのがTechnical Audio Devices、TADでした。これらの動きは、木下正三(当時、パイオニアグループのエンジニア)をこのプロジェクトへと導いた。彼にはすでに素晴らしいノウハウを示した1インチのコンプレッションドライバー、パイオニアED915の開発実績があった。そしてその後、彼がBart Locanthiの最高の(そして、最後の)継承者になったことを思い出させる。1976-1986にかけてBart Locanthiは、パイオニアノースアメリカの研究開発担当副社長になり、同時にTADの開発に参加することになった。1978年の終わり頃、木下正三はその時代を超えた非常に先進的なモデル、TD4001コンプレッションドライバーを設計したが、それはBart Locanthiのノウハウや貴重なアドバイスを含むものである。このモデルの後に、有名な1インチのTD2001、ET 703ツィーターとTL-1601ウーファーのシリーズがすぐに続いた。
1984年に、彼は大きいグループの制約を嫌って、パイオニアをやめ、ハイエンドのモニタースピーカーに明確な焦点を合わせた活動をするための会社、レイオーディオを設立した。その一方で、TADスピーカーの応用と普及をさらにすすめた。我々はレイオーディオが選別したTADスピーカーを使っていることを忘れてはならない。そして、それは周波数特性や共振周波数においてばらつきが小さいという大きな利点をもっている。
当初はTAD、2401と2402(最近になってカタログから消えたが)に近い製品から始まったレイオーディオのモニタースピーカーは、その後、RM、V4 WARP、K-MonitorとMicro Monitorシリーズというように拡大されていった。
我々は、興味を持った読者に(英語で部分的に利用できる)ウェブサイトの訪問をすすめます。 www.reyaudio.com
我々にはすでに、以前のレイオーディオ訪問において、中央にホーンを、そしてその上下に2個のウーファーを備えている巨大なRM7VCや、更にはコンパクトな近接モニター、KM1Vを聴く機会があった。KM1Vについて話すとき、我々はそのような高次元の低音が、ほんとうに小さな容積のスピーカーから、しかも音の統一性や忠実度を保ったまま、出てきているのをかって聞いたことがない、ということを思い出さないでいられない。
巨大なRM7VC(ほぼ700リットルの容積と、250kgの重さ、さらにかなりの重さを持った専用のスタンド、高感度100dB/2.83V/1m, 非常に強力な許容入力1000Wrms、など)についても、我々が1998年に招かれたときの、素晴らしいデモンストレーションを忘れることはできない。これらは本誌No. 230でレポートしたが、我々は特に、木下正三がこのモデルの位相セッティングのために2ウェイ、500Hzのクロスオーバーに40個もの良質な素子を使ったことの重要性に言及した。それらの研究や開発はTom Hidley(アメリカのスタジオデザイナー)の貴重な助力をともなってレイオーディオで続いたという側面を持っている。彼らの共同研究は、ビジュアル感覚の、最高の3D効果を得ることに集中した。この結果は次の段階へとつながる非常に重要な成果を得た。

先端のモニター技術から、素晴らしい芸術の領域へ

レイオーディオは3年前、都会の雑音から遠く離れた丘陵地、箱根に移転した。最も高い摩天楼に囲まれる新宿からバスでちょうど2時間でそこに着くことができる。新しいレイオーディオの本拠は、駐車場が、大きな建物の近くにある、といった古典的な日本企業のようなものではない。ここはほとんど自然の山の中で、狭めの坂道を進むと、少なくとも建坪250平方メートル以上はあると思われる大きな木の家に行き当たる。
歓迎は暖かいものだった。玄関に続いて、幅8m、長さ10mの素晴らしいサロンに入る。音楽家や隣人はこの場所で小さなコンサートを通じて生きた音楽を味わうことができるが、しかし、木下正三の考えによって「オーディオマニアック」系の訪問客は、珍しいといえる。興味を持った人が「こんにちは、私はあなたや、あなたのスピーカーについて、いろいろいいうわさを聞いています。そこで私はあなたのスピーカーを私の持っているタンノイのX、JBLのY、またはStuff AudioのZと比較したいのです。私のアンプはX、Y、Z、またはSuper Parafeedの手作りです」、といった会話を開始するとたちまちに、それは訪問を断られる最高の方法になるだろう。もし会話が、音楽についてや、音楽上の不備不満といった面から始まるならば、会う約束を取り付ける可能性は大きいといえる。もし木下正三の厳格さと名声を知らないならば、ときとしてマニアは、この種のアプローチをしてしまうだろう。音のマニアではあるが、音楽そのものには理解が少ない客を切り離すために、注意深く仕組んだ会話からはじめるということ、そして、一部の客は話の内容がついに自分のお粗末な考えに適合しないということを悟らされる事になる。この取材はこのような例にはもちろん当てはまらないけれど、いずれにしろ、我々はこのような話を木下正三の口から聞くのは驚きだった。
彼は、スタジオモニターの長い開発の結果、より高い三次元表現という新たなフィールドのために、現在、大部分のレイオーディオモニターで採用されている"Vertical Twin"構成に到ったと述べた。そして、非常に進化した、あらゆる最適化によってもたらされたものは、広帯域、ダイナミックレンジ、微小振幅のリニアリティ、低歪み、さらに位相特性といった典型的なパラメーターとの関連で示されることではなく、むしろ芸術といってよい結果へと導かれたという。たとえ彼のようなオーディオの達人からさえ、そのような言葉は、少しおこがましいと感じられた。例えば、16Hz-100kHzのような広い帯域幅をカバーしているわけでもないのに、木下正三が、「自然そのものと言っていい」と主張するのを聞いて、我々はさらに懐疑的にならざるを得なかったのだ。
いよいよ聴くことになりました。彼は、多数のディスクアルバムの中から、そのダイナミックレンジの広さで有名なテスト用のCDなどではなく、古い78回転のディスクを選びました。それは非常に珍しく、そして間違いなく貴重な、パブロカザルスによって演奏されたバッハのチェロソナタでした。プレイバックは、ウエスタンエレクトリックWE4Aカートリッジが取り付けられた古いアームを備えている、2つのターンテーブルで行われた。使われるプリアンプはMSP-1の特別版です。それについては、1998年のレポートでも見られるものです。
78回転の最も大きなおもしろさは、最高といわれるハイエンドの蓄音機、とくに二重に曲がったホーンをそなえたビクトローラ4/23で再生するときの驚きとして知られている。
木下正三は彼の信念に基づいて「これはウエルバランスとか、クリアだとか、いい音がするといったことではなくて、まさにそこに音楽の魂が現れ出るのを見ることになる」、と主張する。「あなたは、本当にパブロカザルスがこの部屋にいるのを、そしてあなたの前で演奏するのを感じるでしょう」。彼は、最終的に、座って、さあ聴こうと我々を誘った。
我々は興奮していて、落ち着かなかった。なぜなら、木下正三は、正しいことを言っていたのだ。それは、本当に素晴らしい。それは、我々が想像し得た最高をも、はるかに凌ぐ出来事です。「素晴らしいリスニング」というコンセプト、「素晴らしい音」という概念、などではなく「通り過ぎる感動」です。超ハイテクレーザーによって作ったような最も美しいホログラフィックイメージのように、パブロカザルスはここにいると感じられ、そしてセンターで、彼の椅子に座っているのさえ感じられます。そして、彼の才能の最高を表現しているのです。
最も逆説的なことは、最も進化した結果のシステムから、鋭くとがった鋼鉄針によって粗い溝をトレースしているのに、まるで別の、完全な平面のようなスムースさで、決して聞く楽しみを妨げられたり悩まされたりしないということです。比較でいうならば、このあとで同じディスクを最高の蓄音機、ビクトローラで再生したとしても、非常に「鈍く」て、遠い、(薄くてニスを塗られた合板パネルでできている曲がったホーンで生じられる独特の木の響きがつくりだす)ある種の作為的な、丸まった音の印象を受けることになるだろう。
最初のリスニングによって、彼の客にもたらされた「感銘」にかまうことなく、木下正三はもう一つのディスクを78回転ディスクの中から選んだ。今度は、Serge Koussevitskyが指揮するボストン交響楽団で、Prokofieffのロミオとジュリエットです。これはナローバンドのモノラルなのに、深い広がりの感じや、得られた立体感の幻想に、再び驚かされた。普通このような録音を、高解像度ステレオ器材によって聴くと、5%の音楽に95%の雑音をふりかけたように聞こえるという印象に至るのに対して、すべてはマスキングの感じもなく、しっかりした音の情景が感じられた。その後に聴いた何枚かのディスクによっても、自然と競うような感覚に、同じ驚きがもたらされた。木下正三はステレオLPや、CDも聞こうと我々を誘ったが、その結果は、最高のレコーディングが示しうる、さらにその最高を表現していた。
ここまでのリスニングは大きなRM7VCモニターで行われた。次ぎに彼が提案したのは小さなマイクロモニターPM10(MM10のアクティブバージョン、幅13cm、高さ23cm、深さ25,3cm)を聴くことで、さらに我々は驚かされた。この2ウェイスピーカーは、13cmのウーファーと、3.3kHz以上には、目の形をしたホーンに結合するドームツィーターを備えている。ここでまた我々は、ごく普通の音量なのだが、音の情景の広くて深い、精緻な展開に驚愕した。滑稽な程の小さな口径のウーファーとこれまた小さなキャビネットにもかかわらず、我々は低音の確かな存在に、驚きで満たされた。我々は、音楽を聴く妨げになるにもかかわらず「このような素晴らしい結果は部屋の音響効果によるのですか」、と質問した。木下正三はそれを認めたうえで、見た目の音響処理の欠如にもかかわらず、この部屋の音響は透明感があって実際に素晴らしく、定在波などが起きないように形状をもっている。スピーカーやアンプなどが消え、部屋中のまさに必要なところに必要なものがあると感じられるようなっています、と答えた。
彼は、これらのミニや、マイクロモニターを自宅にセットしたときに、とても快適だろうと感じさせることで、はじめは懐疑的であった我々を安心させた。さらにいっそう広大なスペースが必要であるが、大型のRM7VCとさらに、専用のRIS-1Cインフラソニックモニターという手段もある。最も美しいスタジオ(南アフリカにある)の1つは、このスピーカーを使っている。減衰も歪みもなく、9Hzもの超低周波まで再現する、世界で希なスタジオとして有名である。

レイオーディオのエレクトロニクス

長い間にわたるフランス人、JeanMarie Fuselierとの共同開発によって、そしていくつかの、ものすごく高品質で仕上げのよい日本製も加えることによって、レイオーディオは、エレクトロニクスの分野でも製品を出している。1999年以降、不変の製品ラインは、HQSパワーアンプシリーズ(2500UPM、2800UPM、モノラルブロック4200UPM)であり、ついには1000W/4Ωというハイパワーを並はずれた電流供給と、ダイナミックなドライブ能力で実現した。
この仲間に加わるのは、リファレンスプリアンプMSP-1とMSP-1LPです。そして、78回転盤用のバージョンはカタログ外であるが、特注によって製作される。これらのプリアンプは感覚で操作できるように、文字のないことによって特徴づけられている。セレクトされた入力は、内部にあるLEDとそれにつながった光ファイバーによって、前面と背面に位置する小さい輝点によって示される。このような高度なリスニング結果に面すると、これ以上、それぞれの構成要素を問題にしたところで意味がないと思われる。
1998年の末、前のレイオーディオにおける、リスニングでは、主としてCDが使われ、時としてLPが有名なThorens Prestigeでかけられた。今回、木下正三は、(CDに加えて、)これまで示したようにモノやステレオの、クラシックを中心としたLPや、78rpmをかけることが多かった。他のソースはDATと、プロ機による2トラック38cmのマスターテープであった。木下正三は彼の発明によるステレオマイクロフォンに現在取り組んでいる。それは独特の「3D」の可能性によって特徴づけらている。我々は詳しいことは知らないが、2007年の間には販売される可能性がある。
木下正三氏の我々に対する暖かい歓迎と、この取材のために、我々を支えてくれた日本のプロオーディオ誌FDIの大泉隆一氏に、すべての感謝の念を捧げます。       Original text by Jean Hiraga.

(p.112. ) 全面に彫刻を施された、貴重で、素晴らしいスタインウエイピアノは、1927年に製造されたもので、完全な状態を保っている。

(p.113. up)サロンのRM-7VC側。部屋は、幅8m、長さ10mの大きさ。高さは、中央でおよそ7m、スピーカーの後ろで3.5m。全ての壁は木で出来ており、ネジや釘なしで組み立てられている。

(p.113. down) 部屋の後ろ側、フロントと同様に設置されたWARP-7を聞くときは椅子の向きを変更する。センターチャンネルに見えるのは、実は大きな石製のストーブ。

(p. 114.) 大きいプロのモニター、RM-7VCやWARP-7から、小さいが、非常に驚くべきMicro Monitor MM-10やPM-10まで。

(p.115.) リスニングの結果は、普通のいい音の概念や定義をはるかに越えるもので、本当に感動的である。オーディオ芸術について彼の道程を話すとき、木下正三は確信に満ちている。

(p. 116.) 音響的処置でなく、周到な形状によってデザインされた、すべてが木できている建物(ネジや釘を使っていない)。レイオーディオはLinearX(CADソフトとリアルタイムアナライザー)の日本のディーラーでもある。

原文:
REVUE DU SON No313 DECEMBRE 2006
INSTALLATION EXEMPLAIRE (P.112 ~ P.117)
この翻訳は原文になるべく忠実に行った。特に歴史的な記述に関してはいくつか不正確なところもあるが、訂正していない。あくまでも原著者の解釈と理解して欲しい。訳者:木下正三
                     REVUE DU SON DEC 2006より転載しました         


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